性の起源
私は、趣味として理科系の書物も結構読むのですが、やはり子ども時代の趣味を引きずっていて、生物学と天文学の本が多いです。
今日は、そんな理科系の話題から・・・
「ミトコンドリアの起源としての共生説」「赤の女王説」「利己的な遺伝子説」といったテーマの現代生物学の解説書を読んでいて思うのは、なぜ「性」というものが発生したのだろうかということです。
普通に考えれば、無性生殖のほうが、有利な生殖方法のように思えます。
単純な理論では、無性生殖による繁殖速度は有性生殖の2倍になります。さらに、有性生殖では、異性を探し回らねばならないし、受粉や交尾といったややこしいシステムを経なければならないので、非常にコストがかかり、リスクもあります。
それにもかかわらず、生物界では、圧倒的に有性生殖のほうが多いのです。これには、大きな理由があるはずです。
それを説明するの有力な説のひとつが、ハミルトンの説です。
これは、多くの生物で遺伝的多型が保持されているのは、遺伝子の多様性を支持するような選択圧が常に働いているためだとします。そして、その選択圧をもたらすのは寄生者であると主張しました。
ハミルトンによれば、寄生者(寄生虫、ウイルス、細菌など)と宿主の間では、常に生存のためのバトルが行われているのです。
一般に寄生者はその寿命の短さにより、宿主より速く進化します。インフルエンザウィルスの例で、我々は身にしみていますね。
そのような寄生者の進化は、宿主に対する攻撃方法の多様化を招きます。したがって、宿主側としては、有性生殖による組み替えで常に遺伝子を混ぜ合わせ続けることで、寄生者の大規模な侵略を止める効果を果たすと考えられるのです。
「種・個体・遺伝子が生き残るためには、常に進化し続けなければならない」とする「赤の女王効果」は遺伝子レベルでの有性生殖の利点を説明することができるというわけです。
ただ、この理論は、性の起源を説明したものではありません。
性の起源に関しては、原始的な真核生物同士の融合から発生したとする説があります。
生物の遺伝子交換システムとして融合から発展した、核のみを移行させるシステムが性の起源なのです。
核遺伝子以外の異物を交換しないほうが、細胞が疲弊しないのです。したがって、融合の際、一方は、核遺伝子のみを渡してその細胞質やオルガネラ(細胞小器官)は異物として不用となります。
すなわち、すぐれた細胞融合の際、侵入してくる異物への防御システムとして、一方の異物を殲滅することにより、寄生者のみならず、オルガネラ(細胞小器官)同士で生じる利己的遺伝子の衝突を避けることができます。
それが、二つの性を発生させた理由ではないかということです。
安全な増殖のためには、細胞質の遺伝は全て母方から受け取ることになります。
一方、父方は細胞質は、ほとんど不要となり、小さくなれるので、卵子に到達するために特殊化します。それが精子なのです。
卵子に受精する際、精子の核DNA以外のわずかのオルガネラは、卵子細胞内で異物として殲滅されます。
したがって、ミトコンドリアなどのオルガネラ(細胞小器官)は、卵子からしか供給されないので、母性遺伝することになります。ミトコンドリア・イブの話は有名ですね。
逆に言えば、オルガネラを遺伝供給するほうを雌、オルガネラを供給しないほうを雄と定義することができます。
もっとも、オルガネラの中で呼吸を司る最も重要な機関であるミトコンドリアや、植物では最も重要な光合成を担当する機関である葉緑体は、もともとは独自の生物であり、寄生者=パラサイトとして細胞内で共生することになったというのが定説です。
ということは、性は異物であるパラサイトを殲滅することもひとつの目的なのですから、性が発生する以前に、すでに元パラサイトであるミトコンドリアや葉緑体との共生が始まっていたと考えられますね。
これは、原核生物から真核生物への進化は、共生によって行われたとする現在の通説と一致します。
独立に酸素を使ってエネルギーを得る能力を獲得した原核生物(好気的生物)がミトコンドリアの祖先であり、光合成の能力を獲得した原核生物(シアノバクテリアに近い?)が、葉緑体の祖先であるということです。
そして、それらが真核生物の祖先になる細胞内に共生し、それぞれミトコンドリア、葉緑体になったとというのが現在の主流の共生説です。
細胞内共生の起源の話もまた面白いですね。
最後に、性の起源について、最も大胆な仮説を御紹介します。
それは、「利己的な遺伝子説」を拡張して、「性」はパラサイトDNA によってつくられたとするものです。
利己的なパラサイトDNAが、無性集団に飛び込んだとしても、無性生殖集団の中では最大に見積もっても、その宿主の割合にしか増殖できません。ところが有性生殖集団であれば、遺伝子交換により、集団中に広がっていくことができます。
そこで、かつて地球上の生物が全て無性生殖であったときに、パラサイトDNAが、自分自身のために、宿主に「性」を与えたというのです!
実は、ミトコンドリアや大腸菌のプラスミド(主染色体以外の小さなDNA分子)に、そのような振る舞いが見られるのです!
性の起源は、現代生物学の最先端と関連しており、いろいろな興味深い理論や、大胆な仮説に触れることができます。
これからも、趣味として楽しんでいきたいと思います。
| 固定リンク


コメント
こんばんは。
タイトルを見て一瞬引いてしまいましたが、理科系大好き文系人間の私には興味深く読ませてもらいました。
種が生き残るためには常に進化しなければいけないというのはとても興味を感じます。
その時点で進化を閉ざす無性生殖は淘汰されるのでしょうが、地球上には無性生殖の生物もあり、無性生殖を選択する理由もどこかにあるのでしょうね。
有性生殖でありながら何億年も姿形を変えない生き物のように、変化をしないという進化の形式を選択している生き物もいますね。
性の起源、とても興味を引く話題ですね。
投稿: まつきんサンバ | 2009年8月21日 (金) 01時27分
【まつきんサンバさん】
興味を抱いていただきましたか。
ありがとうございます。
マニアックな話をこの裏ブログで展開したいと思いますので、宜しくお願いします。
砂漠や極地といった極限的な環境には、無性生殖の種が多いようですね。
これは、こうした環境では、配偶者を探す労力で命を落とすことになるからだと思われます。
「性」とは不思議なものですね。
投稿: 模糊 | 2009年8月22日 (土) 18時42分
映画「ジュラシックパーク」のなかで「種は自ら生き残りの道を模索する」みたいなくだりがあったと記憶してます。遺伝子から甦らせた恐竜。その遺伝子を操作して一代限りの生き物としてプログラムした。にもかかわらず実際には何らかの方法で卵を産み、種をつないでいってしまっていた・・・。
ブログ記事を拝見するとそんな映画の、なんてことないシーンも印象的なものに変わっていきますね。
21世紀一番のフロンティアは、案外体内宇宙なのかもしれませんね。
投稿: らちあに | 2009年8月30日 (日) 16時05分
【らちあにさん】
裏ブログまで読んでいただき、コメントをいただき、ありがとうございます。
「ジュラシックパーク」確かに面白かったですね。
遺伝子の世界は、想像を超えた興味深いものだと実感しています。
20世紀は激動の時代でしたね・・・
ご指摘のとおり、21世紀は、確かに内宇宙の時代かもしれません。
私のような「20世紀少年」は、もう時代遅れなのかな(笑)
投稿: 模糊 | 2009年9月 8日 (火) 19時00分